セイソウのグングニル #12(END)

「イヴァルディ!」

ニルが駆け寄る。
 
 
「ニル……ごめん…… 私……邪魔になっ……ちゃって…………」
 
 
いつもの気丈さはなく、か細い声で話すイヴァルディ。
とっさに手を握る。冷たい。

「わか……るんだ…… もう…………」

いつも着ているスーツ。血が滲んで滴り落ちている。
 
 
どうしたらいいのかわからない。
超高層。全身に及ぶ傷とアザ。
抱えていいのかすらも。
一度下に戻ったとしても、その間に……。
そんな事になったら一生後悔する。
 
 
「あの……ね…… 聞い…… て…………」
「なっ……なんだ」
 
 
 
「抱いて……ほしい…………」
 
 
 
イヴァルディは、そう訴えた。
眼からは、一筋の涙がこぼれていた。

空中庭園の研究室で知り合った2人。

人体改造に取り組みつづけたイヴァルディ。
ニルはイヴァルディの助手を務める傍らで、
自ら被験者になることを志願し、身体能力を高めていた。

お互いに意識はしていたものの、
研究の妨げになると、関係を持つことはしなかった。

そしてあの日、悲劇は起きた。
実験は失敗。ニルは下層に墜された。

離れ離れになった2人。
再開を果たすも、あくまでビジネスパートナーという体裁を保ち続けた。

それは、ニルの”槍”が完全なる殺人兵器に
なってしまったからだ。

身体を重ねること。それは死を意味する。
そうさせてしまったのは、他でもないイヴァルディだ。
イヴァルディはずっと、どこかで、自分の侵した罪を責めていた。
ニルが必要以上に近づいてこないのも、自分のせいだ。
たまに悪態をついてしまうのは、
ニルのあまりに冷たい態度に対し、
せめてもう少し……恋人のようにしていたい、救われたいという
願望の表れでもあった。

抱きしめたい。
2人とも、そう思っていた。
でも、できない。
満たされているようで、あとひとつ、ピースがはまらない日々。

研究室の頃、どうしてもっと愛し合わなかったのだろう。
お互い、日常のふとした瞬間、後悔が全身を駆け巡る。
嫌なことを思い出す時の、あのぞわっとする感覚。

だから、せめて。
最期くらいは。
 
 
「おね…… がい…………」
 
 
ニルはまだ、ためらっている。
自分が、今まさに最愛の人に止めをさそうとしている。
それはあまりにも、残酷だ。

ニルは泣き崩れた。この現実を受け入れたくない。
しかし、そうこうしているうちに
イヴァルディの身体は少しずつ温かさを失っていく。
 
 
「お…… ね……  ……   い」
 
 
握っていた手が、ゆっくりと下がっていく。
 
 
 
ニルの中で、何かが弾け飛んだ。
 
 
 
槍は、ニルに呼応するように、にぶい光をたたえていた。
もう、どうなってもいい。
ここで抱かなければ、お互い死後まで後悔することになる。
覚悟を決めた。

倒れているイヴァルディの頬に、やさしく口づけをする。

「イヴァルディ…… 逝かせてやる」
そして……

ぎゅっと抱きしめると、ひと想いに、槍で、突いた。
イヴァルディの身体がビクン、と仰反る。

終わった。
また、涙が出てきた。
自分の手で、終わらせたのだ。

「イヴァルディ……」

……と、その時。

槍が、7色の光を出し始めた。
瞬く間に光は膨れ上がり、2人を包んでいく。

光はやがて白くなり、塔の頂上を覆うほどになっていた。

ほんのり温かい。

やがて、イヴァルディのへそのあたりから、
光の球体が浮かび上がってきた。

強い光。

ニルは直感的に理解した。
これは、生命。生命そのもの。
ニルとイヴァルディが本当の意味で結ばれ、
生み出された、生命だ。

生命は2人の周りを飛び回り、
やがて、すぅっと、イヴァルディの胸のあたりに消えていった。

……少し、呆然とするニル。

次第にイヴァルディの体温が戻っていく。
アザが見る見る消えていく。傷口がぴたりとふさがっていく。
 
 
 
そして、ゆっくりと。
イヴァルディは、目を覚ました。
 
 
 
「……大丈夫か?」
ニルの問いかけに、ゆっくりと答える。

「うん」

ゆっくりと起き上がるイヴァルディ。
「やっと……ひとつになれたね」

急に照れ臭く感じるニル。

「ありがとう」
そういって、ニルに軽くキスをした。
笑顔のニル。ゆっくりと槍を引き抜く。

光がおさまっていく。
辺りには紅白さまざまな液体が飛び散っていた。

「ふふっ、おめでたい感じ」
「帰ろうか」
「うん」

イヴァルディを抱きかかえ、空を舞う。
一路、事務所へ。
 
 
 
 
……その頃。
下層の住民は、空を見上げて、つぶやいた。
 
 
「太陽だ……」
 
 
ニルとイヴァルディを包んだ光は、
まるで太陽のように街を照らした。

誰もが足を止めた。
愛し合う者、いがみ合う者。
生けとし生ける者、すべてが。

テレビ中継を見ながら、ムーンライト満月がはにかむ。
オクラルが、にやにやしながら上空を見つめる。

その時間、間違いなく、
街は平和になった。

 
 
ドーナツを食べながら、オージンが笑う。
「まあ……また明日からまた忙しくなるがな」
そう言って、ニルの家に封書を投函する。

月夜に浮かぶ、2人のシルエット。
彼らの戦いは、これからも、続く。


あー終わった!ありがとう!
ひどい話だったねー!でも終わったよー!

12話くらいでやりくりするのいいですね。
大体書きあがるの2週間くらいですかね。ほぼ土日消費。

ということで…だいぶひどいネタを出しましたので、
今度はちょっとサイトウニガミ向けのやつを作りたいと思います。

まあでも正直、とっかかりはひどいとはいえ、
きっちり世界観作ってやっちゃいましたね…。
サイトのキャラが乗るくらいなので。
これ、もったいないっすねー。何かサイバーパンクでネタやるなら
この世界でやりたいですね。こんな、インフラとか全部考えちゃってさあ。
ネオカナガワって名前も、きちんと世界構築して完結してる作品って
意外と現時点で無いんですね。
なんかの作品のキャラ付けで、ちょこっと出てくる、くらいの。

あとなんだろう、「ビデオ・フォン」とか、「・」をあえて入れたりとかね。
読みにくくならない範囲で。少しレトロ感出したりして。
いろいろ好き放題やりました。めっちゃ楽しかった。

気が向いたら感想ください(笑)。ありがとやんした。
この勢いでTYPを昔のカンジに戻せたらいいな。無理だな