セイソウのグングニル #08

(つづき)
実験の最終試験を終えた
サイナス=ヤーナとシーラ=ヤマザキ。

サイナスは自分の姿に、それほど衝撃を受けなかった。
元々どうなってもよい覚悟で臨んでいたため、
あっさりと、全てを受け入れることにした。

シーラに自ら声をかける。
「またがんばろう」

その一言で、シーラは救われた気がした。
強い絆。信頼。
「……うん」

しばらくはサイナスのリハビリが続いた。
日中は二人で数値を取りながら、訓練を積んだ。
まるで、新婚生活のようだった。

一週間後のある日。
リハビリを終え、今後について話をしていると、
1人の女性が、やってきた。

「研究は……一応の成果を出したようだな」

彼はウォックス総監。細身で筋肉質。
サングラスがトレードマークだ。ネオカナガワ警察のトップである。
普段はまず目にかかれない人物だ。緊張が走る。

「キミ達が……なぜこの研究を成し遂げたのか。わかるな」
「……平和のためです」
「よろしい。では、早速だがその力を試してもらう」

スッと、サイナスを手持ちの警棒で指し、
静かに命令する。
 
 
「北部地域の住民を皆殺しにしろ」
 
 
「……!?」

北部は確かに、元々東京だったということもあり
住民同士のいざこざが、他の地域より多い。
しかし……

「全員……ですか?」

「聞こえなかったのか? 全員だ。殺せ」

「……お断りします」

「なんだと?いいから殺せ。すべてだ。警察の人間も殺して構わん」

瞬間。
サイナスの股間からだらりと伸びている”それ”が、
瞬間的に動き、パァン、とウォックス総監をビンタした。

ウォックスのサングラスが吹き飛ぶ。
頬が大きく腫れている。
自分でもよくわからない。
しかし、初めて自分のそれが思い通りになった瞬間だった。

「……お断り、します」
「そっ……そうです!罪なき人々を意味もなく殺すなんて!」

よろけるウォックス。
ぎりっ、と歯を軋り、ゆっくりとサングラスを取る。

「……意味は、ないだと?」
サングラスを胸ポケットにしまう。

「大有りだ。人口は爆発し日に日にスモッグは強くなっていく。
下層が完全なる死の大地になるのも時間の問題だ」

サイナスを睨みつけ、続ける。
「はっきり言おう。下層の連中など生きる価値がない。虫けら同然だ!
不要な連中を間引き、地球を空中庭園のような元の姿に戻す!
そして選ばれし人間だけが住む世界を築く!
これこそが! 争いのない真の平和なのだ! さあ! 平和のために殺してこい!!」

「それは貴様の勝手な言い草だ。そんな事をする権利はない」
 
 
「ならば……、お前はこの場で追放だ!!!」
 
 
ウォックスが警備を呼ぶ。警備はサイナスのあらゆるところを掴み、持ち上げる。
「はっ……はなせっ!」
思うように動かない。力が入らない。
 
 
そのままスモッグに、無情にも投げ捨てられてしまった。
 
 
「うわあああああああああああーーーーーーーーっっっ……」
「サイナス!!!」
沢山の警備に咎められ、何もできないシーラ。

「なあ、シーラよ」
ニヤニヤした顔でウォックスが続ける。

「お前は出来損ないの研究者だ。当然ながら……降格だな。
ここに席だけは残しておいてやろう……。私は慈悲深いからな」
「……っ」
「まあ裸にでもなって? お茶でも運んできたら? 許すかもしれんがな」

ウォックスは高らかに笑い、去って行った。
 
 
 
 
涙が止まらない。
自分がふがいない。

研究は失敗だった。そしてサイナスはおそらく……死んだ。
生きていたとしても、あんな、一生残る”傷”を負わせたのだ。
またがんばろう、なんて。
もうがんばれない。がんばれないじゃないか。

サイナス。サイナスがいない人生なんて、考えられない。

とにかく成功に向けて一生懸命だった。
ずっと一緒だった。
でも、成功しなかった。
成功しなかったどころじゃない。
成功してはいけない研究に足を踏み入れたんだ。
最初から、負けが確定していたんだ。

失敗は成功の元だなんて、ウソだ。
人生には絶対に失敗しちゃいけない時がある。
それを、私は失敗したんだ。

サイナスの人生を、ふいにしたんだ。

動けなかった。
立ち上がることさえ許されない気がした。

……何時間経っただろうか。
重い腰が、ようやく上がった。
フラフラと夜道を歩き、自室に戻る。

サイナスに似せたぬいぐるみ。
じっと見つめる。
今日あった事が容赦なくフラッシュバックする。
今までしたこと、感じたこと、すべてが罪悪感となって襲い掛かる。

夜が明けた。

気がつくと床に伏せていた。
久しぶりに仕事を休んだ。
ぼうっと外を見る。
おもむろにシャワーを浴びる。
おでこが痛む。見慣れない傷。おそらく打ち付けたのだろう。

「……何にもなくなっちゃったな」

鏡に向かい、ぽつりとつぶやく。
その日は、何もせず、ただ、ひたすら寝ていた。

翌日。遅れて出勤した。
上司が慰めの言葉をかけてくれた。
まったく耳に入ってこない。

翌日。遅れて出勤した。
研究はもうできないと悟っている。
ちょっとしたルーチンをこなす。

翌日も、その翌日も。ルーチンをこなす。
代わり映えのしない日々。
 
 
1ヶ月が経った。
 
 
自分が、ただ息をするだけの生物に思えてきた。

そんな時。

一本のビデオ・フォンがかかってきた。
知らない番号。
恐る恐るとってみる。

「ああどうも。オージンと……呼んでもらおうかな。
このビデオ・フォンの……使い方がわからないとね。彼に言われてね。
私も……そういうのは疎いんでね。
長話はしない方がいいかな。後は、わかるね。それじゃ」
 
 
何かを全身が駆け巡った。
怖いほどの高揚感。
 
 
とにかく持ち出せるものを全部、圧縮トランクに入れた。
パーソナル・ワークステーションを使い、番号から場所を特定。
あわててデスクをとびだし、自宅の荷物をまとめた。

会える確証はない。
でも、いても仕方がない。

デパーチャー・ゲートから下層へ。
大量に荷物を持った女。奇怪にもみえた。
なりふり構っていられない。
走った。
ゴロツキが声をかけてきた。躊躇いなく発砲した。
命中したかどうか、もう覚えていない。
 
 
ここだ。
薄汚れたビル。8階。801号室。
 
 
激しい緊張。インターフォンを押す。
まるで、初めて彼氏の家に来るかのような。

思えば研究仲間として常に一緒にいたが、
ずっと恋愛対象にするべきではないと、自制していた。
そうやって考えれば考えるほど緊張する。
 
 
少し間が空いて、
扉から。
 
 
彼が出てきた。
 
 
 
「遅かったな」
 
 
 
「……いいじゃない、別に」
 
 
 
精一杯の返事。いろいろ話した。これまでの事、これからの事。
そして、
これからサイナスが、そしてシーラが、何をするか。何をすべきか。

「名付けた。すべてを貫く、グングニル」
「だっさ」
「……いいだろ」
「じゃあ私は、それを作った……イヴァルディね」
「……いい名前だ」
「ところで……ねえ」
「なんだ」
「グングニルって長ったらしいから、ニルって呼ぶね」
「……」
「はい決定。そのコップ、洗っておくから出して」

失われたと思っていた、希望がそこにはあった。
汚れた空。生暖かい風。
スモッグに映し出された月が、まるで祝福しているようだった。


なんか、ホント、いい話になってくるから怖いなあ…。
あ、せっかくなんでラフ絵あげときます。イメージ。
ニル。

イヴァルディ。と、4話のエビ天。

こいつらだけだとそんなサイバーパンク感なし(笑)。

明日は月曜日すねー。だからってんじゃないですが、
TYPの看板女優が出てきます。おたのしみに。

セイソウのグングニル #07

かつてのニホンは分断された。
まるで、昔のロール・プレイング・ゲームのようだ。
郊外は死の大地となった。
電気も水道もガスも途絶し、
住む者はほとんどいなくなった。
街をつなぐのは、衛星とケーブルのみ。

ネオトーキョーは東京湾の埋め立て地に作られた。
今も旧都市部と新都市部の抗争が続いている。
ネオチバはよりディープなネットの街となった。
脳を直接ネットにつなぎ、ダイブするのがチバ流。
仮想と現実の区別など、この街では意味のないものだ。
ネオサイタマはニンジャ・コスプレの街となった。
独自に発展したカタカナ語は流行語の枠を超え、
言うなれば新たな”方言”となっている。

そして、極厚のスモッグに覆われた街、ネオカナガワ。

ネオカナガワにはウォーケンと呼ばれる政府機関があり、
公共事業を、一手に引き受けている。
ネオカナガワで最も大きな事業者、という見方もできるだろう。

そんな政府の一大プロジェクト。
極秘の、ミュータント実験。
それが、この空中庭園(グラズハイム)にあるビルの一室で、間も無く行われる。

政府は表向き、人体のミュータント化に関与していない。
それは単に、ミュータントを良しとしない
「人はヒトであるべき」という人々が政府の主な支持層だからだ。

しかし実際には、ミュータント技術者をかかえている。
また下層のミュータント技術者は、ほとんどが政府から落ち延びた人々だ。
独自にミュータント技術を開発・改良しており、コミュニティもある。

そのほとんどはファッション用途に使われる。
ツノや肌の染色がいい例だ。
最近は特に眼球の技術躍進が目覚ましい。
オッドアイはもちろん、好きな模様を眼球に浮かび上がらせることができる。
かつてはビデオ・ゲームの中でしか出来なかった
キャラクタークリエイトが、現実のものとなっている。

ミュータント技術は、ペットにも用いられる。
翼の生えたウサギや、カラーひよこなど。
一時はそのペットの肉を食えば
不老不死になれるというデマも流れた。
実際に食したものは漏れなく遺伝子崩壊を起こし、死んでいる。

ミュータント生物をイチから作る者もいるが、
ほとんどの場合、研究費の折り合いがつかず、挫折する。
結局、儲かるファッション産業に手を出すのだ。

……では、どんな研究が政府で行われているのだろうか。
研究者が逃げ出すような、政府の研究。

それは、人体兵器である。

武器を持たずして武器を持つ。
見えざる武器。これほどの恐怖は無い。

……実験は、治安の維持を目的として進められた。
そして、今まさに自らを検体として差し出す、若き青年。

彼の名は、サイナス=ヤーナ。
彼は今、反重力ベッドによって浮いたまま、横たわっている。

「緊張してる?」
そう声をかける女性。シーラ=ヤマザキ。
彼女は政府機関でも指折りのミュータント研究者だ。

「大丈夫」
そうは言いつつも、やはり緊張する。
「顔に出てるわよ?」
シーラは笑顔で指摘する。
そういう自分自身も、緊張している。

「じゃあ、リラックスして……」

今日を迎えるまで、全身に薬品を塗られ、水と点滴のみで69時間を過ごした。
気だるい。少し、筋肉が衰えたのを感じる。

これから大型のタンクに入れられ、遺伝子が書き換えられる。
シーラはサイナスのガウンを、ゆっくりと脱がしていく。
サイナスのすべてが、あらわになる。

シーラの胸元が視界にはいる。
こうも近いと、気になって仕方がない。

サイナスはこれまで、シーラを目一杯サポートしてきた。
彼女のこの実験を成功させる。
この技術が平和を取り戻すと信じて。
それも、この実験でひと段落する。
その時には、……その時には。
想いが昂る。

「では、カプセルへ」

反重力装置によりサイナスはベッドから浮いた。
そのまま、横たわったカプセルに入れられる。
カプセルの蓋が閉まり、とろみのついた透明度の低い水が注ぎこまれる。
少し苦しかったが、肺の中まで満たされるとすぐに慣れた。
カプセルは起き上がり、立った状態で浮かされている。
気持ちがいい。胎内にいるようだ。
シーラの声が遠くなっていく。

「それではこれから……人体強化実験の最終試験を行います」
緊張した面持ちで説明するシーラ。
「全身を強化し、人間の限界を超えた……新たな人類が今、誕生いたします」
見守る政府関係者。

「……がんばってね。サイナス」
小さくつぶやくシーラ。すでにサイナスには聞こえていない。

「では……参ります」

静かに、装置のボタンを押す。
ギュゥインと大きな起動音がこだまする。
カプセルから大きな泡。
そしてだんだん、だんだんと小さな泡がサイナスから放出される。
だんだん、だんだん。
サイナスの意識はもうほとんど無い。
あるのは最後に見た……シーラの姿だけ。

シーラ……
オレは…………

…………

……

あっという間に無数の泡で、
サイナスの姿は見えなくなってしまった。

「……おかしい」

想定外だった。変化時間の長さだ。
変化自体は想定内だが、あまりに長すぎる。
カプセルが揺れ始めた。まずい。

「シェルター配備します!」

一際大きなボタンを押す。
赤と白のストライプが描かれた大きなシェルターが、
両側からカプセルを包み込んだ。
カプセルは中で激しく揺れている。
響くサイレン。怯える政府関係者。

緊急停止させるか?
いや、中途半端に止めれば、彼の命が危ない。
もう少しだ、もう少し--

その時だった。
バキョッ、という音とともに、
ドバァッと上からカプセルの水が大量に噴出した。

「なっ……!」
部屋中に降り注ぐ、養液の雨。
一通り放出が終わると、あたりは静寂に包まれた。

みな座り込んでしまっている。
シーラはゆっくりと立ち上がり、声をかけた。

「サ……サイナス?」

すると。
ゆっくりとシェルターが開き……

中から、彼が姿を現した。

「よかった……サイナス! 無事だっ…… た……」

驚くシーラ。
シーラはサイナスから出ている、何か凶悪なモノを目にした。

……まったく頭の整理がつかない。
明らかにあれは、尻尾では…なかった。

脳内にイメージすることで皮膚が硬くなったり、
爪が伸びたりという能力が身につくはずだった。

つまり、カプセルから出てくるときは、
外見上何の変化もない想定だったのだ。

まさか、サイナスのあの部分そのものが、肥大化して、
しかもそのままだなんて、まったく、考えもしなかった。

不安の中、復帰治療は続いた。
集中治療室の外で見守るしかなかった。

彼が目をさましたのは……、一週間後だった。
(つづく)


二人の過去編ですね。

シェルターのカラーリングだけで、
シェルターが大体どういうカンジかは察していただけるのではないかと思います。
ガッテンしていただけましたでしょうか。
ガッテンガッテン。

やっぱ、ベースがマジメなのがいいすなあ(笑)。
初めての続きモノですね。また明日。

セイソウのグングニル #06

今回のターゲットは年齢不詳。
サロン・ファンガールのオーナー、シャンカーン=ナカタ。
依頼内容によると、店の女の子を使って富裕層にハニートラップを仕掛け
大儲けしているらしい。

ネオカナガワでは、売春は法律で禁じられている。
しかし、この街において法律はあってないようなものだ。
金の折り合いさえつけばどんなサービスも受けられる。
清掃屋(スイーパー)が繁盛する世界なのだから、無理もない。

ニルが出かける前。どこか不機嫌そうなイヴァルディ。
「仕事なんだから……遊んでくるとか言わないでね」
「無駄な殺しは望まない」
「あ。まあ……そうか。そうね。そういう返事になるわね」
「なにか懸念でもあるのか」
淡々と準備をしながら返事をするニル。

「ねえニル」
「なんだ」
「出かける前に……」
「?」

「キス……とかさ」

「だめだ」

「……わかってる」
イヴァルディは深いため息とともに
奥の部屋に戻っていき、流れるようにベッドに入った。
少しうつむき、部屋を出る。

サロン・ファンガールは駅から少し離れた歓楽街にある。
呼び込みは激化しており、
少し近づくだけで上半身や下半身を見せるものもいれば、
ホバーカーに飛び乗ろうとするものもいる。
客をめぐってケンカが起きることも珍しくなく、
企業によっては、このエリアに近づいただけで
その社員を減給処分とする所もあるほどだ。

正攻法で店に向かうのは危険。
相手は裏世界で生きる人物。
自分のことが知られている可能性は否定できない。
近づいていることが感づかれれば、逃げられてしまう。

少し湿った自らの槍を雑居ビルに絡ませ、
あっという間に登っていく。

高台から街を見下ろす。
雑踏。炎。ネオン。煙。
ビル窓のあちこちから顔を覗かせる、様々な肌の色。
鼓動が高まる。

槍が、強くなるのを感じる。

遠くに、こじんまりとした店舗を見つけた。
ネオンには小さくサロン・ファンガールとある。
巨大ビルが並ぶ中にある小さな店舗。
言い換えれば、この程度の建物でも十分やっていけるということだ。
この小ささこそ、力の象徴である。

裏手にゆっくりと降り立つ。
シャワーの音が聞こえる。おそらく従業員だろう。
無防備に開いた窓の隙間に槍を差し込み、器用に開ける。
ためらいもなく、中に入る。

「えっ? 何?」
裸を見られるのは慣れているが、
窓から人が入ってくるのには慣れていない。
そんなリアクションを返す従業員。

「なんで窓から……」
疑問を口にしながら、ふと、槍に目をやる。

ひと目見て、わかった。
おそらく何かすれば、無事ではすまない。
いろいろなお客を相手にしてきたが、
何か言い得ない、殺気のようなものを感じる。
押し黙る従業員。
色白の肌。青みがかった黒髪。湯が滴る。

「ナカタは?」
「ち……地下にいると思う」

「わかった。すまない」
そのままシャワールームを通過して潜入する。

「……たぶんこの店、無くなるな」
従業員は水滴を拭き取り着替えると、
ほくそ笑みながらレジの金を掴み、逃げ出した。

地下へと進むニル。
一際大きな、フスマと呼ばれる
横に引くタイプのドアが待ち構えていた。

槍でノックする。音はあまり響かない。

「どうぞ」
中では妙齢の女性がお茶を飲んでいた。

「誰? 何しに来たんだい? そんな物騒なモノをぶら下げて……」
小さな菓子をひょいとつまんで口にする。
口の周りについたくずを、長い舌ですくいあげる。
シャンカーン=ナカタだ。
細身で褐色の肌。真っ白な和装に黒で描かれた桜。
黒い帯。すこし着崩している。

おもむろに立ち上がってこう続ける。
「……どっかで変な噂でも聞いたかい?うちらは何も」

「貴様には……逝ってもらう」

「あらあら、人の話も聞かないで……」
言い終わる前に、強烈なスピードで槍を繰り出し、引き寄せる。
ナカタが気がついた頃には、
ニルの腕の中に、ナカタは収まっていた。
「……!」

槍がゆっくりと下がり、獲物をとらえる。そして……

ドキュッ

槍を、突き立てた。
あっけない幕切れ。空気が凍りつく。

しかし--

「……くっくっくっくっ」
「!?」

ナカタは絶命どころか、突かれたまま笑っている。
もう一度、素早く槍を突き立てる。

ズシュッッ

「……はっはっはっはっはっ」
何がおかしいというのだ。今までこんな事は無かった。
もう一度突き刺そうと、一瞬槍を緩めたその時。

「さん、かい、めっ」

言うや否や、ナカタは懐に仕込んであった短刀で、
ニルの右肩を突き刺した。
「!」
パッ、と辺りに鮮血が舞う。
まるで大蛇の如く、ドドドッと槍が倒れる。

「惜しかったねえ…どうだい?痺れ薬の効果は」

とっさに距離を取った。肩に激痛が走る。体がいうことを聞かない。
必死に短刀を抜き、傷口をおさえる。

「いや……、あんたはいいモノを持っているよ……。昔を思い出すねぇ。
さすがの私も、ちょっと意識が飛んだからね」

ナカタがゆっくりと、近づいてくる。

「だがあんたは相手を見誤った」
うずくまるニルを見下ろし、
ナカタは、おもむろに和装をたくし上げる。

言葉では言い表せない、
何かうねりのようなものを見せつけられている。

「見たかい?この大きく波打った、私自身を……。
私は生まれてこの方、ずっと娼婦として生きてきた。
初めて体を売ったのは0歳の時さ。
もうとっくに……悦びなんてものは感じなくなっちまったんだ」

持ち上げた和装をおろし、後ろにあったドスを拾い、抜く。
すらりとしたうなじがのぞく。

「悪いねえ……でも、ケジメはケジメ」
ドスをニルに向ける。目を細め、一瞥する。
一歩、また一歩と近づいてくる。
絶対、絶命。

……しかし。ニルはこれで終わらなかった。

「ぐっ…!おおおおおおお」
ニルは力を振り絞り、立ち上がる。

「なんと……まだやれるというのか?
しかし何度突いてもムダだ!貴様の槍の形は覚えた!
私があんたを……再起不能にしてやる!」

「どうかな」

「なっ……」
槍でドスをはじく。ドスは弧を描き、タタミと呼ばれる床に突き刺さる。
一瞬ひるんだナカタ。そのまま、再度槍を突き立てる。

「……ふはっ!万策尽き果てたか?そんな粗末なもの、効かぬと言って……」

「甘い」

痛みをこらえ、意識を集中する。
槍の根本が膨らんでいく。
みるみる、みるみる膨らんでいく。
次第に光を帯びていく。

「なっ……」
「スペル・マグナム」

その瞬間。
膨らんだ部分が、一気にレールガンのように押し出され、
ドッ、とナカタを直撃した!

「ぐぅっ!!? こ、これは……」

巨大な液体の塊だ。
塊が体内を駆け巡り、中心部へ到達する。

ニルには、槍を通して見えていた。
中心部。
すっかり小さくなり、干からびた、
かつて、卵だったもの。
彼女が、昔に置いてきたもの。

「な、なにを…」

卵に向かい、1500億はあろうニルのDNAが一斉にとびかかった。
ドドドドドドドドドドドッ。
乾いた卵を覆い尽くす。次第に潤いを帯びていく。

ほどなくして、卵は完全なる復活を遂げた。

下腹部が重い。いやそれ以上に、何か言い表せない、
恐怖を越えた、期待感にも似た何かが押し寄せる。
「や……やめろ!お前、そんな……まさか」

「言っただろう。貴様には……逝ってもらうと」
「ひっ」
目の前で印を結ぶニル。

「着床」

「ぎゃあああああああああっっ!!!!!」
ギュルルルルルルルルルル!!!!
ニルのDNAが、
まるでイワシの魚群のように、大きなうねりとともに、
復元された卵に容赦なく次々とはいりこんでいく!

ナカタには見えた。
何かの鑑定額を見るかのように、カウントアップされていくDNAの数。
イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン……!

それは早期に悦びを失い、娼婦を演じてきたナカタにとって、
到底耐えることができない感覚だった。

激しい痙攣と共に体はまるで引っ張られたかのように伸び、
全身の穴という穴から液体が噴出する。
槍が抜き去られた今も、水圧によってネズミ花火のように回転していた。
その時間、およそ5分。

終わった頃、ナカタは完全に息絶えていた。
自分を取り戻したような、笑顔すら……浮かべて。

表から出ると、入れ違いで警察がやってきた。
ベテランの警部と目があうが、放っておくことにしよう。
ニルは、静かに帰路につく。

夜風が気持ちいい。今日は少し、そう思えた。


ていうかこの世界の人たち本当に頭おかしいな。
でもなんか、アダルトコミックの文法ってそうだと思うんですよね。
頭がおかしい。そして話が早い(笑)。
けどねー、そういうのすごいスキなんですよね。

昔内村プロデュースって番組がありまして。
今でも、自分の中ではバイブル的存在なんですけども、
無理難題をすぐ受け入れるっていうお約束があって。
ウッチャンの出す無理難題にさまぁ~ずやTIMがすげー文句言うんだけど、
すぐ「まあそうか」「なるほどね」「新しいね」とか言って。受け入れちゃう。
それがすげースキでなあー。
だからまあ、都合よく動く、
そういうマンガの文法が心地いいんでしょうね。
ギャグマンガも思えば、そういうカンジですね。

何を冷静に分析してんの。
イチ、ジュウ、ヒャク、センじゃねえよ。なあ。

セイソウのグングニル #05

THE FUDGE(ファッヂ)。
一卵性の双子。彼女らのユニット名。仕事はモデル兼ミュージシャン。
長身で大柄な体型。丸みを帯びたふくよかな体。
奇抜なメイク。奇抜なパフォーマンス。

ひと昔前ではとてもモデルに向かない体型だが
個性が重視されるこの世界で、
彼女らはひとつのファッションアイコンとなっている。

「めちゃくちゃ有名じゃない……セレブ中のセレブね」
イヴァルディがそうつぶやく。
街中のホログラム・シアターで彼女らを観ない日はない。
「……わからん」
ニルはヒマとなればトレーニングをしている。
趣味らしい趣味はない。あまり世間への興味はない。

「もう……これから会うのに。依頼人の事くらい気にしたら?」
「成功の秘訣は知りすぎない事だ……余計な感情はミスを招く」
「そっけないわね。何にも興味ないのかしら」

ため息をつくイヴァルディを横目にやり、今日もまた、淡々と出かける準備を進める。

「ねえ……本当に行くの?何かのワナかも」
イヴァルディは不安に感じていた。依頼はファッヂ本人から。
そして、空中庭園(グラズハイム)行きのチケットが同封されている。
いつもの仕事とは、明らかに毛色が違う。
「仕事は仕事だ」
「……そう。でも……気を付けて」

駅。CENTERと書かれている。

駅には2つの役割がある。
ひとつは地下鉄。庶民の足。
もうひとつは空中庭園へ行くためのデパーチャー・ゲート。

地下鉄は無人のリニアが23時間動いている。
ホームレスはいない。格好のストレス解消相手になってしまうからだ。
また、1日1時間高熱のスチームによって、
まるで食洗器のように構内が洗浄されるため、どのみち定住することはできない。

なお、故障以外で遅延したことはほとんどない。
ドアに何か挟まっていたとしてもそのまま運行される。
挟まった何かは別の何かに挟まれ、勝手に取れる。
人であっても。

対してデパーチャー・ゲートは非常に綺麗だ。

ゲート内のラウンジはそれほど賑わいを見せておらず、物静かな佇まい。
それもそのはず、厳格なセキュリティが施されており、
入れるのは空中庭園の居住者から許可を受けた者だけ。
侵入者はすべて、無人兵器により銃殺される。

依頼書に同封されたパスキーを使い、ゲートを通る。
武器の持ち込みは厳禁だが、
グングニルの持つ”槍”は武器とはみなされないらしい。

ゲートを越え、ラウンジを通過した先にある、殺風景な部屋。
中央には大きなワープ空間がある。
この空間に入れば、すぐに空中庭園へ飛べるというわけである。

少し、ためらう。
しかし……依頼人が待っている。

足を踏み入れる。
ブワッと、一瞬宙に浮くような感覚を覚える。
気がつけばもうそこは空中庭園、上層である。

ゲートを出る。
都会的で、とてものどかな光景。
明るい太陽。澄み渡る空。生茂る木々。噴水。蝶が舞っている。まず下層では見ない光景だ。
少し歩くと田園風景も見られる。
上層では自分たちの食べる物を上層で作り、共有しているのだ。
昔ならともかく、今や天然の物が食べられる事ほどの贅沢はない。

しかし、ニルがここを訪れたのはあくまで仕事だ。
ファッヂ達に会わなければ。
何より、パスキーの効果が切れてしまうと下層へ強制送還されてしまう。
待ち合わせ場所へ急ぐ。

待ち合わせ場所はとある建物の会議室だった。
槍でノックする。中から声がした。

「入って」

真っ白な部屋。
机と椅子、そして水。
中央に座っているのは、ファッヂの妹、ズーカであった。
「おかけになって」
神妙な面持ちでニルに座るよう促す。
警戒するニル。

ズーカはそっとほほえみ、
「殺すつもりならとっくに殺してる」
と告げた。
セリフは強烈だが、何か安心めいたものを感じたニル。
椅子に座る。

深いため息をした後、なにかを決意するように、こう言った。

「姉のヤーダを……始末してほしいの」

ニルは冷静だった。
いかなる依頼も受けてきた。家族間の殺しも当然あった。
ただ、今日は普通でない何かを感じていた。

「ヤーダはどこにいる?」

そう聞くと……何もないところから、すうっと、ズーカにそっくりな女性が現れた。

「ヤーダです」

そっと頭を下げる。足下が少し消えているのがわかる。
ホログラムではないだろう。
今のホログラム技術は、本物と区別がつかないくらい、もっと鮮明だ。

「これは……」
「そう、幽体離脱」

ヤーダが説明する。
ホログラム・ライヴのパフォーマンスでホバージェットを使い
空中を飛び回ったズーカ。
しかし機器トラブルでズーカは落下してしまい、
ヤーダはその下敷きとなってしまった。
ズーカは一命を取り留めたものの、ヤーダは死亡。
落下した瞬間にライヴ配信は取りやめとなり、
誰もがヤーダの安否を心配した。
しかし…

「私はとっくに死んでいる。今ファンに見せているのはデータ化された私」

そう、ユニットパフォーマンスは再開され、今も続いているのだ。
死んだことを隠したまま。

ファッヂのパフォーマンスは多くの人を魅了し、元気を与えている。
そしてプロジェクトは日に日に大きくなっている。
ただ、止められない最大の原因は、金でも、名誉でもなく、

「私が中途半端に生きているから」

ヤーダは、うつむいてそう答える。
どこか、無念さの残る声。

ズーカはヤーダを直視できず、肩を震わせ泣き出している。
無理もない。機材トラブルとはいえ、彼女が上に落ちたせいで死んだのだ。
自分が死ねば良かったのにと、どこかで思っている。

そして2人とも、こう思っている。

魂ある限り、いつか、
ヤーダは生き返れるのではないかと。

しかしその日はこない。
すでにヤーダの体は内密に焼かれ、埋葬されている。
わかっているのだ。
わかり切っている。
それでも、どこか諦めきれない。

「でも……もう終わりにしたくて」

ヤーダの後に、ズーカが続ける。
「一生彷徨い続けるのも彼女のためにならない……だから、
凄腕の清掃屋(スイーパー)なら……もしかしたら殺す方法を知っているのかと思って」

少し考えて、ニルは答えた。
「やってみる」

立ち上がるニル。
ヤーダの前に立つ。
すらりと伸びた槍。
期待なのか、別の感情か。高揚するヤーダ。

「準備はいいか?」
「……はい」

「貴様には……逝ってもらう」

精神を統一する。
冥界を意識する。
次第に……槍に光が灯り始める。
段々と輝きが増していく。
ヤーダと波長がシンクロしていく。
怒張が同調していく。

気がつくと、ニルの槍はヤーダの足下と同じ色になっていた。
向こう側が、見える。
現代に生きる死神とも言うべき、清掃屋(スイーパー)。
その因果と、この槍が、まさに冥界との接触を可能にしたのだ。

ヤーダはすべてを悟り、初めて、穏やかな顔をしてこう呟いた。

「逝かせて。ください。」

まばゆい光の中、ヤーダをひと想いに貫いた。

「ぐっ…… ああぁ………」

ヤーダの笑顔。
体を震わせながら、ヤーダはゆっくりと昇天していく。
ズーカはその日初めて、ヤーダと目を合わせた。
その目には、新たな決意が宿っていた。

そしてニルは、まるで何も見なかったと言わんばかりに、
その場から姿を消したのだった。

--翌日。

「ファッヂ再始動だって……ソロプロジェクトで」
イヴァルディの声で目覚めるニル。
「そうか」
「あれ?ちょっと嬉しそう?」

静かにソファを立ち、ベランダに出るニル。
薄暗い空を見上げながら、ニルは今日も素振りをするのだった。


ワタシの中では、サイト設営当時から、
まあサイトウニガミでもそうですけど、
なんか、創作におけるジェンダーやらなんやら、
ヒューマニズム的な考え方についてはうすーい決まりがあって。
何でも受け入れるっていうのと、
そういう要素が入ってるといいな、ってのと。あって。

だからその、性悪クソ女でも、種付けおじさんでも、性別不明のドラァグクイーンでも、
等しく、槍に突かれたら死ぬべきだと思うんですよね(笑)。
そこに差が無いっていうか。倫理とそこって別だし。

わかりにくいかなあ。
例えば、身体にね、不満足なハンディキャップがあったとしても、
5股とかしてたら、もうお前しゃべるおちんちんじゃん、と思うんですよね。
サウスパークかよ、みたいなそういう。そういうことっす。

そう思うのって、根底に経験があります。
身体的特徴や性的特徴と、人格って、
関係ねーよなーと、働いてて思うことしきり。ははは。

セイソウのグングニル #04

日常。毎日のように届く依頼書。そして報酬。
依頼をさばくのは、イヴァルディの日課。

イヴァルディは、空中庭園グラズハイムの政府建屋に席があり、
本来の住まいもその周辺にある。

しかし今は、理由あって清掃屋(スイーパー)ニルとともに
この下層ビルの一室で毎日、寝食をともにしている。

事務所兼住居。
イヴァルディの部屋。クローゼット、ベッド、テーブル。
なんとも女っ気のない部屋だ。
テーブルを使うときはベッドに座る。
テーブル上にはタブレット端末とキーボード。封書。素っ気ないカップ。
枕元には妙に頭身の高い猫のぬいぐるみが置いてある。作りは良くない。
デスクもあるが、使われていないパーソナルコンピュータと
ビデオ・フォンが置かれている。
すべてニルの持ち物だが、埃をかぶっている。
そう、この部屋は元々、ニルの部屋なのだ。

今ニルはリビングで生活している。
革張りのソファがベッドがわり。
お気に入りの服はポールにかかっており、それ以外は雑然としまってある。
そして長いテーブル、古いテレビ。電池の切れたリモコン。

「おはよう。……行儀悪いわね」
テレビの電源を自慢の槍で押すニル。

ニルはニュースを見ながらプロテインを補給する。
イヴァルディは”泥水よりマシ”というコーヒーを飲み、パンを食べる。
おはようと言っても、実時間は昼だ。
夜に仕事をするのだから無理もない。

なお、昼間が澄み切った空かというと、そうではない。
スモッグに覆われていつも薄暗いのだ。
対して夜はというと、月の映像がスモッグに映し出される。
なんでも、先の戦争によって月は消滅したらしい。
そこで時間の経過を示すため、そして月が恋しい人々のために、
政府があえて、月を映している。
月は夜のアイコンだが、何よりもロマンチックで神秘的だ。
いつも暗いこの世界に生きる物にとって、
月は安らぎを与え、街のネオンともマッチする大事な明かりなのである。

話を戻そう。
昼過ぎからはイヴァルディ、ニルともに自分の業務に打ちこむ。
イヴァルディは受け取った依頼をさばくほか、金銭管理なども行う。
一応のけじめとして、スーツを着る。
ニルは、トレーニングに明け暮れる。体が資本というわけである。

イヴァルディが外出する時は、必ずニルが送っていく。
特に治安が非常に悪いエリアでは、イヴァルディを小脇に抱え、
槍をまるでフックのように使い、ビル間を飛び回る。
イヴァルディはこの時間が好きらしいが、
ニルはそれに気がついていない様子だ。

日中のワークを終えた後は、夜を迎える前に腹ごしらえをする。
ほとんどが、外食。
屋台がひしめきあう商店街で好きなものを食べる。
スーパーもあるにはあるが、生鮮食品はほとんど売っていない。
何より、家ではまともに飲める水が出ないのだから、
料理すること自体、かなりリッチな趣味なのである。

ヌードルショップMEIJINはいつも盛況だ。
「ナニニシママスカ」
旧式のロボット店主が聞いてくる。”マ”がひとつ多い。
中身はうどんにとても似ている。
トッピングを沢山頼もうとすると
「フタツデジュウブンデデスヨ」と声をかけてくる。
昔からお決まりのセリフだが、ただそれだけではない。
沢山頼む輩は食い逃げをする可能性が高いからだ。
いつでもガトリングを掃射する準備はできている。

イヴァルディは巨大なエビ天。ビール。そしてヌードルは大盛り。
ニルは決まってタマゴと、チキンを乗せる。
「これ、本当のエビなのかしらね」
もったりしたエビ天をハシで持ち上げ、しげしげと見る。
「そんなエビはいない」
「そうね……でも味は悪くない」
街に来たての頃のイヴァルディは、
暮らしに馴染めず食事もままならなかった。
今やすっかり溶け込んでいる。

「ねえ」
ふいにイヴァルディがニルに聞く。
ほんの少し、酔っているようだ。
「なんだ」

「今も……あたしの事、恨んでる?」

「またそれか」
「答え、聞いてないから」
「恨んでない」
「本当に?」
「他に言いようがない」
「何それ」

静かに席を立つニル。
「ねえ!」
槍をとっさに握るイヴァルディ。
槍の先から何かが少し出て、通行人にかかる。
「ごまかさないで。あたし……」
「恨んでなんかいない。むしろ」
「むしろ?」

「……時間だ。いくぞ」
「あっ……ねえ! ちょっと! 置いていく気!?」

足早にその場を去る。

ここからが本当の仕事だ。
ニルはスーツに着替え、己を奮い立たせる。
イヴァルディは、ニルにすべてを任せるのみである。
自ら直接、殺しに加担しない。
ただじっと、事務所でドライ・ランドリーをかけながら
彼の帰りを待つ。

今日は2時間ほどで帰ってきた。
ターゲットは女性、20代後半。名前はワカノ=ウカタ。
普段はゴシック姿で占い師をしていた。
訪れた客を殴りつけ、昏倒しているスキに違法薬物を摂取させて
薬漬け状態にし、無理やりドラッグの上客にして金を奪っていた。
自分の師匠や育ての親をも手にかけていたらしい。

帰りがけのところを槍でひと突き。
危なげもなく、一瞬だった。

「お見事……ね。さすがグングニル」
「やめろよ」
「そんな事言って……意外と気に入ってるくせに。その名前」
「……」

シャワーを浴びる。ストレッチをする。本を読む。就寝準備。

「ねえ。さっきの話なんだけど」
思い出したようにイヴァルディが切り出す。
すでに寝息を立てているニル。

「……もう」

仕方なく、ぬいぐるみを抱いて横になる。
また昼に起きるのだろう。
でも、こんな生活も悪くないと感じるイヴァルディであった。


日常の回ってスキで。どんな作品でも。
ドラゴンボールで天下一武道会が終わった後、
悟空とみんなでメシ食うとか、あるじゃないですか。
ああいう普段描写って、なんかいいんですよね。

ずーっと頑なに、槍がぶらんぶらんしてますけど。
あっちなみに、前回の話の中で、
「槍の先に帽子を被せてる」って一文があるんですけど、
それを入れるか入れないかで半日悩みました。
悩み方が頭悪い。

セイソウのグングニル #03

「最近依頼が増えたわね……」
イヴァルディがこぼす。

「お金貯まるのはいいけど……たまには買い物でも行きたいな」
「そうだな……」
「ねえ、ニルはそういうの……ないの?」
「何がだ」
「例えばその……さ。好きな人と出掛けたり」

少し間があく。
「無くは……ない」
「何それ?」
「……」

「……はあ」
少し呆れた調子のイヴァルディが依頼に目を通す。

「うっ……、これ」
「どうした?」
「ターゲットは40代後半……男性、体格は170cm・90kg程度……」
「男性……」
「名前はベイン=オオタ。街の女性を催眠状態にして襲う通称……”種付けおじさん”」

「種……なんだって?」
「何度も言わせないで。種付けおじさんよ。政財界の大物の娘を手籠にしたとか……」
「やり手だな」
「あなたが言うなんてね。……やれるの?」

「無論だ。だがまずは、居場所を掴まねば」

お気に入りの黒いスーツ、ワインレッドのシャツ、短めの黒いネクタイ。
持ち物は事務所のカードキーのみ。
獲物である”槍”は、普段は後ろに回して尻尾のように見せている。
先端にはイヴァルディが作った、ファーのついた帽子が被せてある。

槍の先端を覆っているため、何も問題は無い。
そうして彼は今日も、獲物を探す。

中心街。
駅は目の前。大きな広場。地面に白線の跡。
今となっては、その白線に意味を求めるものはいない。
ひしめく人、人、人。行き交うホバーカー。ホログラム広告。レーザーネオン。
屋台の匂い、香水の匂い、乾物の匂い、薬品の匂い。
水は高値で取引され、水より安いアルコールが飛ぶように売れる。
生花は宝石よりも高価で、まず下層の人間には手が出せない。
雑多な音楽がそこらじゅうで聞こえる。

そしてここにいる誰もが、ネットの繋がりだけでは満たされなくなっている。
出会いと刺激を求めて、今日も人は街をさまよう。

「ようシッポのにいちゃん!どうこれ!見ていきな!」

屋台でガラクタを売る女。
薄いピンクのバクハツ頭。まるでパンダのようなアイライン。無数のピアス。
体中の傷に縫合の跡。破れたTシャツ。はだけた胸。
若い見た目だが、あぐらをかきまるで老婆のようにキセルを蒸す。
名は、オクラル。

「……」
「なんだいノリ悪ぃな。それともアレ?例の名前で呼んじゃう?」
「……っ」
「まま、そういう顔すんなって。欲しいんだろ?いつものやつ」
「ああ」

「入んな」

屋台を放り出して裏の店へ連れていくオクラル。
中には大量のサーバとモニタが山と積まれていた。
彼女の本当の仕事は、情報屋だ。

「さて……今日は?」
積みあがった電子機器の前に座るオクラルは、
さながらどこかの仙人のようだ。

「こいつを探している」
種付けおじさんの写真を見せる。

「なんだ……あんた、本気か?」
ニルが探しているということは、
ほぼ間違いなくそいつを殺すということだ。
オクラルにはそれがわかっている。

どう殺すか、という事も、わかっている。

「まいっか。そいつ……は、この近辺のアパートに住んでいる。地図は……」
どこからか引っ張り出してきたキーボードをチャカチャカと打つ。
タバコのヤニで見事に変色している。

タン、とリターンキーを押す。
ぎぎぎっ、ぎぎぎっと古びた感熱紙のプリンターが紙を吐き出す。
ぞんざいに千切られた紙切れを受け取るニル。

「そこに行けばいい。まったく今時、端末も持ち歩かないなんて……」
端末とは、携帯電話の事だ。
スマートフォンのような端末もあれば、ガラケーのような端末もある。
おもちゃの携帯にチップとモニタを埋め込んで使う者もいる。

「……支払いは後日」
「毎度どーも!……それにしても」

おもむろにニルの元に近づくオクラル。
そっと槍を手にし、すりすりとやさしく撫でていく。

「ほんっとうに立派な槍だねぇ……。このむせるような香り……」
すこしとろんとした表情でやわらかな槍を頬に当てる。
「この体で一度、お相手してもらいたいわぁ……」
何かスイッチが入ったように、
ぎゅぅっと、槍を愛おしそうに抱きかかえ、顔を密着させ、深呼吸する。

「相手……してやろうか?」
そう言われ、はっとするオクラル。
「いや、冗談!シャレにならん!死にたくないわ!」
槍から手を離す。

「……まあ、今際の際にはお願いしたいもんだね」

オクラルの店を後にする。
目指すは、種付けおじさんことベイン=オオタの住処。

あっさりとたどり着いた。
セキュリティも何もない、昔ながらの古いアパート。
下層の貧民は未だに電子ロックのかからない家に住んでいる。
下水の臭い。じめついた空気。

…いる。

戦闘態勢に入る。
さっきまでシッポのように大人しかった槍が、
次第に強力な硬さを帯びてくる。
静かにドアを、槍でノックする。
返事がない。
だが、確かに人の気配がする。

「失礼」

そう言うとニルはドアを突いた。
バキョッという音とともに、カギとチェーンが外れる。

「!」
中には、精気を失いぐったりした様子の少女が数人いた。

その横で、ベッドに座りパンツ一丁でタバコを吸う1人の男。
「……なんだ?」
間違いない。こいつだ。
こいつが、種付けおじさん。

男はゆっくりと立ち上がる。
ゴキゴキと首を鳴らすと、ニルの容姿を見て
「なんだ……仲間か」と言い、ニヤリと笑った。
「あんた強そうだな……。何が目的だ? ……オレと一緒に楽しみたいのか?」

「貴様には……逝ってもらう」

「そうか」
男は笑みを強める。くすんだ歯がのぞく。

「だが私にそれができるか……なっ!?」

言うなり端末の画面をかざしてくる種付けおじさん。
妖しいピンク色の光がニルを襲う。

「ぐっ……!」

催眠アプリだ。
相手を都合のいいように動かすことができる、都合のいいアプリ。
まさか実在したとは。

「さあさあさあさぁああ! お前も言いなりになれぇッ!!!」
光はどんどん強まっていく。
「ぐはっ……! ご……ご主人……さ…………」
「ふわーーははははは!!!! さあ!貴様も従順なメイドになれ!! そして闇市で貴様を」

ドジュッ
「ほぅっ!!?」

まるで、時間が止まったような気がした。
静寂。
持っていた端末が、手から滑り落ち、ゆっくりと落ちる。
槍は、大きく弧を描き、後ろから種付けおじさんを貫いていた。

「な……ぜ……」
だらりと崩れる種付けおじさん。
どこか明後日の方向を見つめながら、ゆっくりと話す。

「さっ……催眠アプリは、完璧の……はず。なのに……どうして……」
「簡単なことだ。意識の一部を槍に転移させた」
「そん、な……。本体は……抜け殻だった、と……言う……のか」

「さあ……止めだ」

串刺しにしたまま、手も使わずに種付けおじさんを持ち上げる。
種付けおじさんは痙攣をおこすばかりで、身体中が動かない。
手足を大きく広げ、息を吸うニル。

「罰だ」
そう言うとニルは、全神経を槍に集中させた。
槍の根本が淡く光り、次第に肥大化していく。

「スペル・マシンガン」

刹那。
ズドドドドドドドドドドドドドッ--
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!! 」

まるで禁忌の魔法(スペル)が如く、
バリウムにも似た大量の液体が、力強く、体内に叩き込まれた。
体内を高速で飛ぶ液体は骨を折り、内臓をつぶし、容赦なく広がっていく。
ボコボコと音を立て、腹がどんどん膨らんでいく。
「あばばばっばばばっばばばばば」
そして--

「がっ」

ドーーーーン……

くぐもった破裂音とともに、種付けおじさんは爆散した。

意識を取り戻す少女たち。
気がついた時すでにニルは、いなかった。

少女たちはどこか英雄の匂いを感じ、帰路に着くのだった……。


キライなんですよね、種付けおじさんが。
なんか気持ち悪い。
そんなおじさんいたらイヤじゃないですか。
だから殺しました(笑)。

いや正確には、なんか、あの、
不自然な気持ち悪さのおじさんがね、
いるじゃないですか。
わかります?進撃の巨人の後半に出てくる、みたいな顔の。
顔が過剰なやつ。そういうのが苦手です。

せっかくの空想世界なので、
相手はかわいいか、イケメンがいいですね。
まじめか。

セイソウのグングニル #02

強靭な槍”グングニル”を操るニルとイヴァルディの、次なるターゲット。

武器商人。放火堂のミナミ。
最新のプラズマ兵器をこの街に持ち込もうとしているらしい。

依頼人からの書類に目を通す。
「こんなものが使われたら……ネオカナガワは……」
「モノに興味はない。依頼を遂行するのみだ」
「……そうね」
「オレたちは正義の味方じゃない」
「ニル……あのね」
「正義の味方は、表舞台に出るものさ」
「……」

そう言うとニルは、闇夜へと溶けていった。

ネオカナガワ。
人口500万人の大都市。
2020年に起きたオリンピックに起因する第3次世界大戦により
敵対国の総攻撃を受け、日本の大都市はほぼ壊滅。
横浜でも川崎でもない荒涼としたこの土地に人々は移住し、
独自の発展を遂げてきた。

元々外国人の出入りが激しいこの地域は
新たな文化創造拠点に相応しく、
今やあらゆる人種が混在する場所となっていた。
すべての貪欲な想いが交錯する街。それがネオカナガワ。

しかし膨れ上がりすぎた人口により、秩序は完全に破綻していた。
毎日のように起きる殺人。ドラッグ。売春。人身売買。
そしてその上空、分厚いスモッグの上には
政府とごく一部の選ばれた人間だけが住める空中庭園、グラズハイムがあった。

「……いつになったら住めるんかな、あそこ」
ミナミは上空を見上げてポツリと呟いた。
リノ=ミナミ。
見た目は高校生ほどだが実年齢は40歳前後。
流行りのミュータント整形を施しているようだ。
肌色は青。7色の髪。小さなツノも見える。
路地で銃を並べ、売りさばく。

「こいつ?こいつはねえ… 19万8000えぇん」
独特のイントネーションで武器に値段をつけていく。
ネオカナガワでは、銃の所持自体は合法だ。
ただし武器は申請が義務付けられており、
認可されなければセキュリティロックがかかり、動作しない。
彼女はロックを外した非正規の”脱獄品”と呼ばれる武器を扱っている。
ゆえに、ほとんどが盗品だ。

「まあこんな生活も……もうすぐ終わりだ」
一通り今日の商売を終えると、フード付きマントを着こみ、
手下と共に足早に路地を去っていく。

小型のホバートラックで向かった先は、街の郊外。
大きな倉庫の一角に、それはあった。

プラズマ・ブラスター。

強力なプラズマ波をあたりに放出し、
あらゆる電子機器をダウンさせてしまう兵器。
電子機器に依存した今の世界でこの兵器を動作させることは、
街の死を意味する。
ブラックマーケットで売れば少なくとも、100億はくだらない品だろう。

「よし……じゃ積み込め」
黒づくめの手下が4人がかりでトラックにプラズマ・ブラスターを積み込む。
小型とはいえ、非常に重い。
「落とさないようにな!保証はきかねーぞ!」
荷が振れないように、他の荷と一緒にベルトで縛る。

「……いいだろう。じゃ、出発だ」

「ミナミさん」
ふいに、手下の1人がつぶやく。
「なんだ?」
「これ……誰に売るんですか」
「お前に言って何になる」
「ただちょっと……気になりまして」
「誰だっていいだろ……金さえもらえれば」
「そうですね……」
「大体お前には関係のないことだ」
「そうでした……すみません」
「? ……お前」
「なんでしょうか」
 
 
「お前…… 誰だ?」
 
 
ミナミが銃を抜こうとしたのその瞬間、
その手下はマントを投げつけ、大きくジャンプした。

ゆっくりと、バク宙で空を舞う男。
しなやかな手足とともに、彼の”槍”もまた、優雅に舞っていた。

「お、お前、まさか……」

今その名前を出すことを躊躇うほど、ミナミは恐怖心で一杯だった。

凄腕の清掃屋(スイーパー)。
まさか目の前に。
ウソであってほしい。
路端で聞こえて来るあの噂話。
どうか。ウソであってほしい。

「グングニル」

聞きたくない名前を聞いてしまった。
背筋が凍る。
槍が発する熱による上昇気流を使い、
ゆっくりと降り立つニル。
彼の眼はまっすぐ、ミナミに向けられていた。

……20メートルほど先に、死神がいる。
気がつくとミナミは失禁していた。無理もない。

「くっ……」
「貴様には……逝ってもらう」

「いっ……いいか!動くなよ!こっちには銃があんだからなぁっ!」
手下とともに銃を向ける。サブマシンガンだ。撃たれればひとたまりもない。

「無駄だ」
言うや否や、ニルはミナミとその手下へ向かった。

「うわああああああああああああッッ!!!!!」
ズダダダダダダッ!!!
手下とともに慌ててサブマシンガンを乱射するミナミ。

しかし、銃弾は当たらなかった。
槍を持ち、プロペラの如く振り回すことで
いともたやすく、チュンチュンチュンチュンと銃弾を弾いていく。

弾を撃ち終えた手下。目前に槍を振り回す男。
慌てて武器を持ち替えようとするが、

「遅い」

薙ぎ払うように3人の手下を槍が襲う。
しなやかに、強く。骨の折れる音。断末魔。
あっという間だった。

ミナミはあまりにも絶望的な状況になす術なく、座り込んでしまった。
槍を片手に、にじり寄るニル。

「た……頼む!マジ助けて!なあ!こんな……
こ、こんな可愛い子を、なあ!お前!ここ、殺すなんてぇ、そんな」

ミナミの前に立ち、ゆっくりとミナミを持ち上げるグングニル。

「わかった2割やる! 2割!! どうだ!? じゃもう2割! 4割だ! 4割やるから」
 
 
ドシュッ
 
 
「ひぐぅっ……! あ……」
槍が、容赦なくミナミを貫く。脳が快楽で一気に汚染される。
眼は寄り、上にぐるんと向いたまま。
だらしなく舌を出し、そのまま息絶えてしまった。

「愚かな……」
プラズマ・ブラスターを一瞥すると、ホバートラックごと海の底に沈めた。
ぶくぶくと、音を立てて藻屑と消える。

朝焼けがまぶしい。
槍についた露を払い、帰路についた。

彼の戦いは続く。この槍のある限り。


やってみてください。
こう、ね?
2割!ね。右手でピースして。
もう2割!ね。左手でピースして。
そんで、目を寄せて、上向いて、舌を出す…と?

あっ、おかあさんに怒られる。
もしくはチコちゃんに叱られる(冤罪で)。寝よう。

セイソウのグングニル #01

「後ろからひと突き……か」

現場はきれいなものだった。路地裏。横たわる死体。女性。20代後半。
道の先には女性の住むマンション。おそらく帰り道。
ほんの一瞬の出来事だったことが窺える。

「グングニル」

そうベテランの刑事がつぶやいた。
若手の警官が不思議そうに尋ねる。

「グングニルって……なんですか?ファンタジーの?」
「ああ……オレはあんまそっち方面は疎いんでな。そう……槍だ、槍」
「そのグングニルがどうか……したんですか?」
「ホシ(犯人)の名前だ。おい、ここを見てみろ」
女性の死体をばつが悪そうに指差す。

「こ、これは……!」
 
 
 
--20XX年。ネオカナガワの一角。
下層のとあるビル。8階。男女の話す声。

「お見事……ね。さすがグングニル」
「やめろよ」
「そんな事言って……意外と気に入ってるくせに。その名前」
「……」

くたびれた革張りのソファに腰掛ける、中性的な顔立ちの男。
髪はショートだが前髪はだいぶ伸びており、目はほぼ隠れている。
彼こそが、グングニル。
当然だがグングニルというのは偽名だ。彼の本名ではない。
普段はニルと呼ばれている。

仕事は清掃屋(スイーパー)。
清掃と言っても、対象は専ら”人間”だ。

「報酬はいつもどおりポストに……」
言うやいなや、ガサッという音が玄関から聞こえて来る。
「……入ったみたいね」
おもむろに玄関に出歩き、報酬を拾い上げる。

彼女の名はイヴァルディ。もちろん、偽名。
胸ばかり大きいのがコンプレックスらしい。
ニルのマネジメントをしている。

「……あら。また依頼が入ってたわ。忙しいわね……ニルも」
「今度のターゲットは?」
「本当、仕事熱心よね……。カーロン=ルーゴス。サニーコープ社長。
表向きは、やり手の経営者。
でも実態は……人を人とも思わないブラック社長てとこね」

イヴァルディがターゲットの写真を見せる。
なかなかの美女。眉が太く大きな鼻が特徴的だ。
「彼女は今裁判で係争中……。まあ……小物だわ」
「小物でも全力で仕留めるさ。この”槍”で」
 
 
 
翌日。深夜。
ルーゴスの自宅。

「ジャップのアホども……やっちゃえ裁判みたいな空気だしやがって……
どうせ金が欲しいだけだろ!この金1円もやらんぞ!っざけやがって!」
ひたすらにワインをあおるルーゴス。
「おい!そこの警備!」
「はっ」
「お前、私の相手をしろ」
「そっ……それはどういう……」

警備に壁ドンをキメるルーゴス。
ブラウスの奥に下着がチラつく。
「そんな事、私に言わせる気か……?」
「いやっあのっ……ち、近いですルーゴスさま」

ルーゴスのワインにまみれた吐息が警備の男を包み込んでいく。
吐息は少しずつ、少しずつ、ゆっくりと、警備の意識を奪っていく。
あたたかい、甘美なる吐息。
目がうつろになっていく。
すっかり蕩け切った……その瞬間。

「ふっ……あっはははははは!」

突然笑い出すルーゴス。
「お前みたいなモブ風情が……あっはははは! おい吐息分の金払えよ! なあ!」
警備は感情がぐちゃぐちゃになってしまい、その場に座り込んでしまった。
ルーゴスがヒールで一発、蹴りを入れる。

「ったくモブに人権なんかねえってのに」
小さく毒づくルーゴス。そのままワインを片手にベランダに出る。
大きな月。眼下に夜景。天を仰ぐ。
ワインを撒き、声を上げた。

「裁判がどうした!私は逃げきってみせるぞ!!!
どうしても止めたきゃ殺してみろーーーーーッッ!!!!!」

その時だった。
ヒュッという音とともに、ルーゴスは天高く打ち上げられた。
「なっ--!!?」
体は宙を舞い、屋上に叩きつけられる。
「ぐぁっ」
月明かり。ワインまみれのスーツ。
酒の所為か、打ち付けた影響か。頭が割れるように痛い。

わけもわからず起き上がると、
そこには月の光を浴びた1人の男がいた。
「だっ……誰だ!」

男は静かに言った。
「……グングニル」

逆光から浮かび上がるシルエット。
そこには、男から、あきらかに、
巨大なグングニルがそびえ立っていた。

風を受け、木々が凪いでいる。
そんな中でも、微動だにしないグングニルが、そこにあった。

「おあっ……お、お前!そのなんだ……それが、グングニルか!?」

「そう……グングニル。貴様をグンとやって、グニる」
「グンってやって、グニる……!? う、う、……うわああぁぁああーっ!!!!」

聞いたことがある。清掃屋?殺し屋?だがもう、なんでもいい。
とにかく今、そいつが目の前にいる。

裁判どころではない。今ここで、殺される。

恐怖のあまり逃げ出そうとしたその瞬間、
すでに背後にはニルの姿があった。

「いっ……!? いつの間に!!?」
「私が近づいたのではない。貴様が近づいたのだ」

どうやらニルの先から出ている粘度の高い液体で
ルーゴスは引き寄せられたらしい。
あまりに瞬時の出来事であったため、
ルーゴスは自分の背後に回られたと錯覚したのだ。

「さあ……遊びは終わりだ。」
「ぐっっ」

「貴様には……逝ってもらう」

ルーゴスの体をガッチリとホールドするやいなや、
一気に下から、”槍”を突き立てた。

ドシュッッ

「!!!! はぅっっ…… がっ…… か は……っ……」

あっけないほどの一撃。
数秒の痙攣を経て、白目をむきドサリと倒れ込むルーゴス。
抵抗することもできない。即死だった。

「社長!」
警備が屋上に来たときには、すでに社長は事切れていた。
ニルもまた、姿を消していた。
あたりには、芳醇なワインの香りが漂っていた……。
 
 
 
翌朝。事務所。

ニルはプロテインを飲んでいた。
「昨日はどうだった?」イヴァルディが様子をうかがう。
「いつもどおりだ」
「そう……さすがね、ニルは」

「依頼は?」
「今日は……ないかな」
そういうとイヴァルディはまた眠りについた。

束の間の休息。
珍しく穏やかな顔を見せるニルだった……。


おひさしぶりです。ジャジャです。
いきなりの下ネタ発進です。どうですか。どうですかこのやろう。

えっと、TYPは下ネタをやらないポリシーで20年間運営してきました。
であのー、逆に、
ウチでやる下ネタってどういうのだろう?というのをですね、思いまして、
もう今年は2020スーパーベースボール(SNK)イヤーですので(笑)、
書いてみてもいいんじゃん。って事で。そのまんま書いてみました。

これ、12話まであります(笑)。
もうほとんど出来上がってます。

今日から毎日アップしていきたいと思いますので、よしなに…。
ちなみに当初はもっと描写が露骨で、サイトに上げるつもりありませんでした。
でもねー、こういうのってもう、欲求そのままだから、
書いてて楽しくなっちゃうんですよね(笑)!
そうなるともう、サイトに載せないともったいないってんで。ねえ。

うーん、久々に、完全なる「自分のための創作」だなって思います。
需要がオレで供給がオレ。さいこう。
もうさあ、そうやって生きていこうよ。オレ気が付いたら中間管理職だよ。
おちんちんくらい好きに動かさせてくれよ。もう。


あ、今年もよろしくお願いします。
ギリギリセーフ!steamで旧正月セールやってるくらいだし!
よかったら拍手ください。くれなくても勝手にやります。

2019年は、自分の中では種まきの年でしたね。
そしたら、まー根腐れしましてね(笑)。
小学館さんとか。行きましたね。いい思い出です(笑)。

NintendazeCOMMENTARY公開!

先週、任天堂まとめ本「Nintendaze」を公開しました。
そして今日。その解説本ということで…
全ページにコメントをつけた「Nintendaze COMMENTARY」を無料公開します。

 

上のイラストをクリックしてください。PDF落とせます。
こちらからでも。
【ダウンロード Nintendaze sideA】
【ダウンロード Nintendaze sideB】
※sideAは約58M、sideBは約79M程度あります。

えっとー、もうだいぶ年月経ってるし読みにくいかなーというのと、
結構MOTHER関連は練ったものが多いので
リアルタイムならともかく今伝わりにくいかなーというのと、
なにより新鮮に読んでほしいというのがあって、作ってみました。

サンプルはこんなカンジ。

だいたいこんなような。
ていうか無料公開なので、あとはもう読めばいいじゃないかと思います。

sideAは天丼ネタの初出が結構あるかなあ。
sideBはもともとの本がネタ相当練ってあったので読みごたえあるかも。

つーことで!ぜひお楽しみください。
また、感想もお待ちしておりまーす。