セイソウのグングニル #02

強靭な槍”グングニル”を操るニルとイヴァルディの、次なるターゲット。

武器商人。放火堂のミナミ。
最新のプラズマ兵器をこの街に持ち込もうとしているらしい。

依頼人からの書類に目を通す。
「こんなものが使われたら……ネオカナガワは……」
「モノに興味はない。依頼を遂行するのみだ」
「……そうね」
「オレたちは正義の味方じゃない」
「ニル……あのね」
「正義の味方は、表舞台に出るものさ」
「……」

そう言うとニルは、闇夜へと溶けていった。

ネオカナガワ。
人口500万人の大都市。
2020年に起きたオリンピックに起因する第3次世界大戦により
敵対国の総攻撃を受け、日本の大都市はほぼ壊滅。
横浜でも川崎でもない荒涼としたこの土地に人々は移住し、
独自の発展を遂げてきた。

元々外国人の出入りが激しいこの地域は
新たな文化創造拠点に相応しく、
今やあらゆる人種が混在する場所となっていた。
すべての貪欲な想いが交錯する街。それがネオカナガワ。

しかし膨れ上がりすぎた人口により、秩序は完全に破綻していた。
毎日のように起きる殺人。ドラッグ。売春。人身売買。
そしてその上空、分厚いスモッグの上には
政府とごく一部の選ばれた人間だけが住める空中庭園、グラズハイムがあった。

「……いつになったら住めるんかな、あそこ」
ミナミは上空を見上げてポツリと呟いた。
リノ=ミナミ。
見た目は高校生ほどだが実年齢は40歳前後。
流行りのミュータント整形を施しているようだ。
肌色は青。7色の髪。小さなツノも見える。
路地で銃を並べ、売りさばく。

「こいつ?こいつはねえ… 19万8000えぇん」
独特のイントネーションで武器に値段をつけていく。
ネオカナガワでは、銃の所持自体は合法だ。
ただし武器は申請が義務付けられており、
認可されなければセキュリティロックがかかり、動作しない。
彼女はロックを外した非正規の”脱獄品”と呼ばれる武器を扱っている。
ゆえに、ほとんどが盗品だ。

「まあこんな生活も……もうすぐ終わりだ」
一通り今日の商売を終えると、フード付きマントを着こみ、
手下と共に足早に路地を去っていく。

小型のホバートラックで向かった先は、街の郊外。
大きな倉庫の一角に、それはあった。

プラズマ・ブラスター。

強力なプラズマ波をあたりに放出し、
あらゆる電子機器をダウンさせてしまう兵器。
電子機器に依存した今の世界でこの兵器を動作させることは、
街の死を意味する。
ブラックマーケットで売れば少なくとも、100億はくだらない品だろう。

「よし……じゃ積み込め」
黒づくめの手下が4人がかりでトラックにプラズマ・ブラスターを積み込む。
小型とはいえ、非常に重い。
「落とさないようにな!保証はきかねーぞ!」
荷が振れないように、他の荷と一緒にベルトで縛る。

「……いいだろう。じゃ、出発だ」

「ミナミさん」
ふいに、手下の1人がつぶやく。
「なんだ?」
「これ……誰に売るんですか」
「お前に言って何になる」
「ただちょっと……気になりまして」
「誰だっていいだろ……金さえもらえれば」
「そうですね……」
「大体お前には関係のないことだ」
「そうでした……すみません」
「? ……お前」
「なんでしょうか」
 
 
「お前…… 誰だ?」
 
 
ミナミが銃を抜こうとしたのその瞬間、
その手下はマントを投げつけ、大きくジャンプした。

ゆっくりと、バク宙で空を舞う男。
しなやかな手足とともに、彼の”槍”もまた、優雅に舞っていた。

「お、お前、まさか……」

今その名前を出すことを躊躇うほど、ミナミは恐怖心で一杯だった。

凄腕の清掃屋(スイーパー)。
まさか目の前に。
ウソであってほしい。
路端で聞こえて来るあの噂話。
どうか。ウソであってほしい。

「グングニル」

聞きたくない名前を聞いてしまった。
背筋が凍る。
槍が発する熱による上昇気流を使い、
ゆっくりと降り立つニル。
彼の眼はまっすぐ、ミナミに向けられていた。

……20メートルほど先に、死神がいる。
気がつくとミナミは失禁していた。無理もない。

「くっ……」
「貴様には……逝ってもらう」

「いっ……いいか!動くなよ!こっちには銃があんだからなぁっ!」
手下とともに銃を向ける。サブマシンガンだ。撃たれればひとたまりもない。

「無駄だ」
言うや否や、ニルはミナミとその手下へ向かった。

「うわああああああああああああッッ!!!!!」
ズダダダダダダッ!!!
手下とともに慌ててサブマシンガンを乱射するミナミ。

しかし、銃弾は当たらなかった。
槍を持ち、プロペラの如く振り回すことで
いともたやすく、チュンチュンチュンチュンと銃弾を弾いていく。

弾を撃ち終えた手下。目前に槍を振り回す男。
慌てて武器を持ち替えようとするが、

「遅い」

薙ぎ払うように3人の手下を槍が襲う。
しなやかに、強く。骨の折れる音。断末魔。
あっという間だった。

ミナミはあまりにも絶望的な状況になす術なく、座り込んでしまった。
槍を片手に、にじり寄るニル。

「た……頼む!マジ助けて!なあ!こんな……
こ、こんな可愛い子を、なあ!お前!ここ、殺すなんてぇ、そんな」

ミナミの前に立ち、ゆっくりとミナミを持ち上げるグングニル。

「わかった2割やる! 2割!! どうだ!? じゃもう2割! 4割だ! 4割やるから」
 
 
ドシュッ
 
 
「ひぐぅっ……! あ……」
槍が、容赦なくミナミを貫く。脳が快楽で一気に汚染される。
眼は寄り、上にぐるんと向いたまま。
だらしなく舌を出し、そのまま息絶えてしまった。

「愚かな……」
プラズマ・ブラスターを一瞥すると、ホバートラックごと海の底に沈めた。
ぶくぶくと、音を立てて藻屑と消える。

朝焼けがまぶしい。
槍についた露を払い、帰路についた。

彼の戦いは続く。この槍のある限り。


やってみてください。
こう、ね?
2割!ね。右手でピースして。
もう2割!ね。左手でピースして。
そんで、目を寄せて、上向いて、舌を出す…と?

あっ、おかあさんに怒られる。
もしくはチコちゃんに叱られる(冤罪で)。寝よう。