今回のターゲットは年齢不詳。
サロン・ファンガールのオーナー、シャンカーン=ナカタ。
依頼内容によると、店の女の子を使って富裕層にハニートラップを仕掛け
大儲けしているらしい。
ネオカナガワでは、売春は法律で禁じられている。
しかし、この街において法律はあってないようなものだ。
金の折り合いさえつけばどんなサービスも受けられる。
清掃屋(スイーパー)が繁盛する世界なのだから、無理もない。
ニルが出かける前。どこか不機嫌そうなイヴァルディ。
「仕事なんだから……遊んでくるとか言わないでね」
「無駄な殺しは望まない」
「あ。まあ……そうか。そうね。そういう返事になるわね」
「なにか懸念でもあるのか」
淡々と準備をしながら返事をするニル。
「ねえニル」
「なんだ」
「出かける前に……」
「?」
「キス……とかさ」
「だめだ」
「……わかってる」
イヴァルディは深いため息とともに
奥の部屋に戻っていき、流れるようにベッドに入った。
少しうつむき、部屋を出る。
サロン・ファンガールは駅から少し離れた歓楽街にある。
呼び込みは激化しており、
少し近づくだけで上半身や下半身を見せるものもいれば、
ホバーカーに飛び乗ろうとするものもいる。
客をめぐってケンカが起きることも珍しくなく、
企業によっては、このエリアに近づいただけで
その社員を減給処分とする所もあるほどだ。
正攻法で店に向かうのは危険。
相手は裏世界で生きる人物。
自分のことが知られている可能性は否定できない。
近づいていることが感づかれれば、逃げられてしまう。
少し湿った自らの槍を雑居ビルに絡ませ、
あっという間に登っていく。
高台から街を見下ろす。
雑踏。炎。ネオン。煙。
ビル窓のあちこちから顔を覗かせる、様々な肌の色。
鼓動が高まる。
槍が、強くなるのを感じる。
遠くに、こじんまりとした店舗を見つけた。
ネオンには小さくサロン・ファンガールとある。
巨大ビルが並ぶ中にある小さな店舗。
言い換えれば、この程度の建物でも十分やっていけるということだ。
この小ささこそ、力の象徴である。
裏手にゆっくりと降り立つ。
シャワーの音が聞こえる。おそらく従業員だろう。
無防備に開いた窓の隙間に槍を差し込み、器用に開ける。
ためらいもなく、中に入る。
「えっ? 何?」
裸を見られるのは慣れているが、
窓から人が入ってくるのには慣れていない。
そんなリアクションを返す従業員。
「なんで窓から……」
疑問を口にしながら、ふと、槍に目をやる。
ひと目見て、わかった。
おそらく何かすれば、無事ではすまない。
いろいろなお客を相手にしてきたが、
何か言い得ない、殺気のようなものを感じる。
押し黙る従業員。
色白の肌。青みがかった黒髪。湯が滴る。
「ナカタは?」
「ち……地下にいると思う」
「わかった。すまない」
そのままシャワールームを通過して潜入する。
「……たぶんこの店、無くなるな」
従業員は水滴を拭き取り着替えると、
ほくそ笑みながらレジの金を掴み、逃げ出した。
地下へと進むニル。
一際大きな、フスマと呼ばれる
横に引くタイプのドアが待ち構えていた。
槍でノックする。音はあまり響かない。
「どうぞ」
中では妙齢の女性がお茶を飲んでいた。
「誰? 何しに来たんだい? そんな物騒なモノをぶら下げて……」
小さな菓子をひょいとつまんで口にする。
口の周りについたくずを、長い舌ですくいあげる。
シャンカーン=ナカタだ。
細身で褐色の肌。真っ白な和装に黒で描かれた桜。
黒い帯。すこし着崩している。
おもむろに立ち上がってこう続ける。
「……どっかで変な噂でも聞いたかい?うちらは何も」
「貴様には……逝ってもらう」
「あらあら、人の話も聞かないで……」
言い終わる前に、強烈なスピードで槍を繰り出し、引き寄せる。
ナカタが気がついた頃には、
ニルの腕の中に、ナカタは収まっていた。
「……!」
槍がゆっくりと下がり、獲物をとらえる。そして……
ドキュッ
槍を、突き立てた。
あっけない幕切れ。空気が凍りつく。
しかし--
「……くっくっくっくっ」
「!?」
ナカタは絶命どころか、突かれたまま笑っている。
もう一度、素早く槍を突き立てる。
ズシュッッ
「……はっはっはっはっはっ」
何がおかしいというのだ。今までこんな事は無かった。
もう一度突き刺そうと、一瞬槍を緩めたその時。
「さん、かい、めっ」
言うや否や、ナカタは懐に仕込んであった短刀で、
ニルの右肩を突き刺した。
「!」
パッ、と辺りに鮮血が舞う。
まるで大蛇の如く、ドドドッと槍が倒れる。
「惜しかったねえ…どうだい?痺れ薬の効果は」
とっさに距離を取った。肩に激痛が走る。体がいうことを聞かない。
必死に短刀を抜き、傷口をおさえる。
「いや……、あんたはいいモノを持っているよ……。昔を思い出すねぇ。
さすがの私も、ちょっと意識が飛んだからね」
ナカタがゆっくりと、近づいてくる。
「だがあんたは相手を見誤った」
うずくまるニルを見下ろし、
ナカタは、おもむろに和装をたくし上げる。
言葉では言い表せない、
何かうねりのようなものを見せつけられている。
「見たかい?この大きく波打った、私自身を……。
私は生まれてこの方、ずっと娼婦として生きてきた。
初めて体を売ったのは0歳の時さ。
もうとっくに……悦びなんてものは感じなくなっちまったんだ」
持ち上げた和装をおろし、後ろにあったドスを拾い、抜く。
すらりとしたうなじがのぞく。
「悪いねえ……でも、ケジメはケジメ」
ドスをニルに向ける。目を細め、一瞥する。
一歩、また一歩と近づいてくる。
絶対、絶命。
……しかし。ニルはこれで終わらなかった。
「ぐっ…!おおおおおおお」
ニルは力を振り絞り、立ち上がる。
「なんと……まだやれるというのか?
しかし何度突いてもムダだ!貴様の槍の形は覚えた!
私があんたを……再起不能にしてやる!」
「どうかな」
「なっ……」
槍でドスをはじく。ドスは弧を描き、タタミと呼ばれる床に突き刺さる。
一瞬ひるんだナカタ。そのまま、再度槍を突き立てる。
「……ふはっ!万策尽き果てたか?そんな粗末なもの、効かぬと言って……」
「甘い」
痛みをこらえ、意識を集中する。
槍の根本が膨らんでいく。
みるみる、みるみる膨らんでいく。
次第に光を帯びていく。
「なっ……」
「スペル・マグナム」
その瞬間。
膨らんだ部分が、一気にレールガンのように押し出され、
ドッ、とナカタを直撃した!
「ぐぅっ!!? こ、これは……」
巨大な液体の塊だ。
塊が体内を駆け巡り、中心部へ到達する。
ニルには、槍を通して見えていた。
中心部。
すっかり小さくなり、干からびた、
かつて、卵だったもの。
彼女が、昔に置いてきたもの。
「な、なにを…」
卵に向かい、1500億はあろうニルのDNAが一斉にとびかかった。
ドドドドドドドドドドドッ。
乾いた卵を覆い尽くす。次第に潤いを帯びていく。
ほどなくして、卵は完全なる復活を遂げた。
下腹部が重い。いやそれ以上に、何か言い表せない、
恐怖を越えた、期待感にも似た何かが押し寄せる。
「や……やめろ!お前、そんな……まさか」
「言っただろう。貴様には……逝ってもらうと」
「ひっ」
目の前で印を結ぶニル。
「着床」
「ぎゃあああああああああっっ!!!!!」
ギュルルルルルルルルルル!!!!
ニルのDNAが、
まるでイワシの魚群のように、大きなうねりとともに、
復元された卵に容赦なく次々とはいりこんでいく!
ナカタには見えた。
何かの鑑定額を見るかのように、カウントアップされていくDNAの数。
イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン……!
それは早期に悦びを失い、娼婦を演じてきたナカタにとって、
到底耐えることができない感覚だった。
激しい痙攣と共に体はまるで引っ張られたかのように伸び、
全身の穴という穴から液体が噴出する。
槍が抜き去られた今も、水圧によってネズミ花火のように回転していた。
その時間、およそ5分。
終わった頃、ナカタは完全に息絶えていた。
自分を取り戻したような、笑顔すら……浮かべて。
表から出ると、入れ違いで警察がやってきた。
ベテランの警部と目があうが、放っておくことにしよう。
ニルは、静かに帰路につく。
夜風が気持ちいい。今日は少し、そう思えた。
ていうかこの世界の人たち本当に頭おかしいな。
でもなんか、アダルトコミックの文法ってそうだと思うんですよね。
頭がおかしい。そして話が早い(笑)。
けどねー、そういうのすごいスキなんですよね。
昔内村プロデュースって番組がありまして。
今でも、自分の中ではバイブル的存在なんですけども、
無理難題をすぐ受け入れるっていうお約束があって。
ウッチャンの出す無理難題にさまぁ~ずやTIMがすげー文句言うんだけど、
すぐ「まあそうか」「なるほどね」「新しいね」とか言って。受け入れちゃう。
それがすげースキでなあー。
だからまあ、都合よく動く、
そういうマンガの文法が心地いいんでしょうね。
ギャグマンガも思えば、そういうカンジですね。
何を冷静に分析してんの。
イチ、ジュウ、ヒャク、センじゃねえよ。なあ。