セイソウのグングニル #05

THE FUDGE(ファッヂ)。
一卵性の双子。彼女らのユニット名。仕事はモデル兼ミュージシャン。
長身で大柄な体型。丸みを帯びたふくよかな体。
奇抜なメイク。奇抜なパフォーマンス。

ひと昔前ではとてもモデルに向かない体型だが
個性が重視されるこの世界で、
彼女らはひとつのファッションアイコンとなっている。

「めちゃくちゃ有名じゃない……セレブ中のセレブね」
イヴァルディがそうつぶやく。
街中のホログラム・シアターで彼女らを観ない日はない。
「……わからん」
ニルはヒマとなればトレーニングをしている。
趣味らしい趣味はない。あまり世間への興味はない。

「もう……これから会うのに。依頼人の事くらい気にしたら?」
「成功の秘訣は知りすぎない事だ……余計な感情はミスを招く」
「そっけないわね。何にも興味ないのかしら」

ため息をつくイヴァルディを横目にやり、今日もまた、淡々と出かける準備を進める。

「ねえ……本当に行くの?何かのワナかも」
イヴァルディは不安に感じていた。依頼はファッヂ本人から。
そして、空中庭園(グラズハイム)行きのチケットが同封されている。
いつもの仕事とは、明らかに毛色が違う。
「仕事は仕事だ」
「……そう。でも……気を付けて」

駅。CENTERと書かれている。

駅には2つの役割がある。
ひとつは地下鉄。庶民の足。
もうひとつは空中庭園へ行くためのデパーチャー・ゲート。

地下鉄は無人のリニアが23時間動いている。
ホームレスはいない。格好のストレス解消相手になってしまうからだ。
また、1日1時間高熱のスチームによって、
まるで食洗器のように構内が洗浄されるため、どのみち定住することはできない。

なお、故障以外で遅延したことはほとんどない。
ドアに何か挟まっていたとしてもそのまま運行される。
挟まった何かは別の何かに挟まれ、勝手に取れる。
人であっても。

対してデパーチャー・ゲートは非常に綺麗だ。

ゲート内のラウンジはそれほど賑わいを見せておらず、物静かな佇まい。
それもそのはず、厳格なセキュリティが施されており、
入れるのは空中庭園の居住者から許可を受けた者だけ。
侵入者はすべて、無人兵器により銃殺される。

依頼書に同封されたパスキーを使い、ゲートを通る。
武器の持ち込みは厳禁だが、
グングニルの持つ”槍”は武器とはみなされないらしい。

ゲートを越え、ラウンジを通過した先にある、殺風景な部屋。
中央には大きなワープ空間がある。
この空間に入れば、すぐに空中庭園へ飛べるというわけである。

少し、ためらう。
しかし……依頼人が待っている。

足を踏み入れる。
ブワッと、一瞬宙に浮くような感覚を覚える。
気がつけばもうそこは空中庭園、上層である。

ゲートを出る。
都会的で、とてものどかな光景。
明るい太陽。澄み渡る空。生茂る木々。噴水。蝶が舞っている。まず下層では見ない光景だ。
少し歩くと田園風景も見られる。
上層では自分たちの食べる物を上層で作り、共有しているのだ。
昔ならともかく、今や天然の物が食べられる事ほどの贅沢はない。

しかし、ニルがここを訪れたのはあくまで仕事だ。
ファッヂ達に会わなければ。
何より、パスキーの効果が切れてしまうと下層へ強制送還されてしまう。
待ち合わせ場所へ急ぐ。

待ち合わせ場所はとある建物の会議室だった。
槍でノックする。中から声がした。

「入って」

真っ白な部屋。
机と椅子、そして水。
中央に座っているのは、ファッヂの妹、ズーカであった。
「おかけになって」
神妙な面持ちでニルに座るよう促す。
警戒するニル。

ズーカはそっとほほえみ、
「殺すつもりならとっくに殺してる」
と告げた。
セリフは強烈だが、何か安心めいたものを感じたニル。
椅子に座る。

深いため息をした後、なにかを決意するように、こう言った。

「姉のヤーダを……始末してほしいの」

ニルは冷静だった。
いかなる依頼も受けてきた。家族間の殺しも当然あった。
ただ、今日は普通でない何かを感じていた。

「ヤーダはどこにいる?」

そう聞くと……何もないところから、すうっと、ズーカにそっくりな女性が現れた。

「ヤーダです」

そっと頭を下げる。足下が少し消えているのがわかる。
ホログラムではないだろう。
今のホログラム技術は、本物と区別がつかないくらい、もっと鮮明だ。

「これは……」
「そう、幽体離脱」

ヤーダが説明する。
ホログラム・ライヴのパフォーマンスでホバージェットを使い
空中を飛び回ったズーカ。
しかし機器トラブルでズーカは落下してしまい、
ヤーダはその下敷きとなってしまった。
ズーカは一命を取り留めたものの、ヤーダは死亡。
落下した瞬間にライヴ配信は取りやめとなり、
誰もがヤーダの安否を心配した。
しかし…

「私はとっくに死んでいる。今ファンに見せているのはデータ化された私」

そう、ユニットパフォーマンスは再開され、今も続いているのだ。
死んだことを隠したまま。

ファッヂのパフォーマンスは多くの人を魅了し、元気を与えている。
そしてプロジェクトは日に日に大きくなっている。
ただ、止められない最大の原因は、金でも、名誉でもなく、

「私が中途半端に生きているから」

ヤーダは、うつむいてそう答える。
どこか、無念さの残る声。

ズーカはヤーダを直視できず、肩を震わせ泣き出している。
無理もない。機材トラブルとはいえ、彼女が上に落ちたせいで死んだのだ。
自分が死ねば良かったのにと、どこかで思っている。

そして2人とも、こう思っている。

魂ある限り、いつか、
ヤーダは生き返れるのではないかと。

しかしその日はこない。
すでにヤーダの体は内密に焼かれ、埋葬されている。
わかっているのだ。
わかり切っている。
それでも、どこか諦めきれない。

「でも……もう終わりにしたくて」

ヤーダの後に、ズーカが続ける。
「一生彷徨い続けるのも彼女のためにならない……だから、
凄腕の清掃屋(スイーパー)なら……もしかしたら殺す方法を知っているのかと思って」

少し考えて、ニルは答えた。
「やってみる」

立ち上がるニル。
ヤーダの前に立つ。
すらりと伸びた槍。
期待なのか、別の感情か。高揚するヤーダ。

「準備はいいか?」
「……はい」

「貴様には……逝ってもらう」

精神を統一する。
冥界を意識する。
次第に……槍に光が灯り始める。
段々と輝きが増していく。
ヤーダと波長がシンクロしていく。
怒張が同調していく。

気がつくと、ニルの槍はヤーダの足下と同じ色になっていた。
向こう側が、見える。
現代に生きる死神とも言うべき、清掃屋(スイーパー)。
その因果と、この槍が、まさに冥界との接触を可能にしたのだ。

ヤーダはすべてを悟り、初めて、穏やかな顔をしてこう呟いた。

「逝かせて。ください。」

まばゆい光の中、ヤーダをひと想いに貫いた。

「ぐっ…… ああぁ………」

ヤーダの笑顔。
体を震わせながら、ヤーダはゆっくりと昇天していく。
ズーカはその日初めて、ヤーダと目を合わせた。
その目には、新たな決意が宿っていた。

そしてニルは、まるで何も見なかったと言わんばかりに、
その場から姿を消したのだった。

--翌日。

「ファッヂ再始動だって……ソロプロジェクトで」
イヴァルディの声で目覚めるニル。
「そうか」
「あれ?ちょっと嬉しそう?」

静かにソファを立ち、ベランダに出るニル。
薄暗い空を見上げながら、ニルは今日も素振りをするのだった。


ワタシの中では、サイト設営当時から、
まあサイトウニガミでもそうですけど、
なんか、創作におけるジェンダーやらなんやら、
ヒューマニズム的な考え方についてはうすーい決まりがあって。
何でも受け入れるっていうのと、
そういう要素が入ってるといいな、ってのと。あって。

だからその、性悪クソ女でも、種付けおじさんでも、性別不明のドラァグクイーンでも、
等しく、槍に突かれたら死ぬべきだと思うんですよね(笑)。
そこに差が無いっていうか。倫理とそこって別だし。

わかりにくいかなあ。
例えば、身体にね、不満足なハンディキャップがあったとしても、
5股とかしてたら、もうお前しゃべるおちんちんじゃん、と思うんですよね。
サウスパークかよ、みたいなそういう。そういうことっす。

そう思うのって、根底に経験があります。
身体的特徴や性的特徴と、人格って、
関係ねーよなーと、働いてて思うことしきり。ははは。

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